ジュリアン・ドール
『坊主、お前の言う話が本当だとしたなら、9200ベルク、ここへ持って来なさい。実際は、その昔昔の値段だ。今現在で言えば25万ベルクは下らない。それほどまでに価値のある人形だ。

しかし、坊主が本当にこの人形を幸せにしてくれるなら、当時の価値のままの値段で譲ろう。それ以下では残念だが譲る事は出来ない。

いくら坊主が良いところのボンだったとしても、両親が残してくれた財産だけでは、到底足りんだろう。自分が出世して、その金を作れ。

そのお金が用意できた時には、お前もいい大人じゃろう?仮に今ここで人形が目覚めたとて、妹よりチビでどうする?姫君が混乱するだけじゃろう。

この人形が他の手に渡る事などないから、安心して早く大人になれ』と――。


あれから、ちょうど三十の歳を重ね、今まで私は、こうやって生活を切り詰めてまでして君を手に入れようとしていたと言うのに、君はすでに人の手に渡ってしまったんだね。

君を買った主人とは、いったい、どこの誰なのだろう?

それでも、君はまだ誰にも汚されてはいない。そのことだけが安心だ)



――と、いろいろ訊ねたい事はあったが、物思いにふけっているハーリーの横顔は、声も掛け難い様子だった。



娘は黙っていることしかできなかった。


彼女からは、遠い昔に捕らわれた呪縛、エルミラーラの魔力の波動が今も感じられる。


いつまた人形の姿に戻ってしまうかもわからない。



(運命はいつまで君をがんじがらめにしているのだろうか?)



ハーリーは、とにかく今の状況をどう知らせて良いものか、頭を抱えていた。

七百年以上もの時代を越えて再会した、可愛い妹に・・・・・。
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