恋心
信号待ちをしながら、ボーッと赤信号を見つめる。
この信号、長いんだよなー。
なんて、そんなことを考えていた時だった。
「なっちゃん?」
後方から聞こえてきた声。
振り返らなくても、それが誰なのかが分かってしまう自分がとてつもなく嫌だった。
「今帰り?」
思わずうつむいたあたし。
だけど視界の端に、ジーンズとサンダルが映る。
「……」
「つーか、この前のあいつ彼氏?」
黙り込んでいたあたしに、聞こえくる先輩の声。
引っかかった信号を恨む。
タイミング悪く会ってしまったことに、今日一日全てを後悔した。
例えば…
朝家を出る時間が一分でも早かったら。
例えば…
食堂でA定食じゃなくてきつねうどんにしてたら。
例えば…
春ちゃんともう少し話してれば。
こんな風に信号には引っかかってなくて。
会うことも、気付かれることもなくて。
話しかけられることなんてなかったのに。