恋心
「何言ったんだよ?あいつに何言ったんだよ!」
「ちょっと、痛っ、痛いってば!」
顔をしかめながら、服を掴む俺の手を離そうとする。
だけど俺は絶対に離さなかった。
「やめてっ、大雅」
「大雅なんて気安く呼ぶんじゃねーよ!若菜の名前も、テメーには呼ぶ資格なんてねーんだよ!」
許せなかった。
10年ぶりに突然現れたこの人を、母親だなんて思えなかった。
「分かったっ、分かったから!呼ばないから!」
そう言った声に、俺は乱暴に掴んでいた服から手を離した。
「何なんだよ…」
「えっ?」
「いきなり現れて、何なんだよ!」
憎しみと怒りの後に俺を襲ったのは、悔しさと虚しさだった。
目の前にいるこの人が自分の母親。
10年前に幼い俺達を置いて出て行った、あの時の母親なんだ。
ムカつくぐらい、俺によく似てる。
目も鼻も、腹立たしいほどソックリだ。
認めたくないけど、こいつは母親なんだと本能で確信した。