恋心



「何って…若菜にも話したんだけど。私には何もできないって言うから」


「何がだよ」


「お金をね、少し貸してもらえないかと思って」



金…貸してだと?



「今やってるスナックが家賃を四ヶ月滞納しちゃってて。今週中に払わないと店たたまなきゃいけないのよ」


「……ざけんじゃねーよ…」


「えっ?」


「ふざけたこと言ってんじゃねーよ!」


「ふざけてなんかないわ、ちゃんと返す、本当に返すから」



情けなくてたまらない。

こんな人から、俺は生まれたのか?



あの寒い冬の日。

この人が出て行ったあの日も、俺と若菜は泣きながらこの人が帰ってくるのを待っていた。


…ずっと待ってたんだよ。

こんなにひどい母親でも…


「お母さん、お母さん!」って。

俺達はあの時、風呂場で震えながら待ってたんだ。


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