恋心
「ありがと…」
「おー」
と、その時だった。
相原のカバンから携帯が鳴り響いて。
カバンからそれを取り出した相原は、ジッと画面を見つめたまま出ることを躊躇っているように見えた。
あいつか…
「出れば?俺帰るし」
「あっ…うん…」
相原はそう言うと、フーッと息を吐いて俺から少し距離をあけると電話を耳元に当てた。
何電話ごときで緊張してんだか。
そう思いながら俺は自転車にまたがろうとした。
「はい…あっ、すいません。はい…ちょっと今日体調悪くて…連絡しようと思ってたんですけど…病院行ってて」
だけど、聞こえてくる言葉にそっと耳を済ませる。
病院?
体調悪い?
「あっ、はい。はい…すいません、以後気をつけます。バイト人数大丈夫ですか?あっ、はい、分かりました…ありがとうございます、はい失礼します」
バイト?
バイトって…
「おい」
「何?」
少し距離のある俺達の間。
「お前、バイトだったの」
「えっ?あ…うん」
あいつだと思っていた電話の相手は、相原のバイト先からだった。
もしかして…俺のせいで?
「ごめん…何か変なことに巻き込んで…バイトまでサボらせちまって」
「えっ、ううん、大丈夫。ちょうど休みたいなーって思ってたんだ」
「えっ?」
「聞いてくれる?バイト先に対面恐怖症とかいう人と接するのが苦手な人がいてさー」
相原はそう言うと、傘を閉じてバス停のベンチまで歩くとそこに腰掛けた。
「っていうか屋根あるしここ。そこいたら濡れるよ?」
そして突っ立っている俺にそう言うと、また勝手に話を始める。
「でね、その人西田さんっていうんだけどさ。あ、あんた分かるんじゃない?メガネのちょっとロン毛のここにホクロある人」
「あー!あいつか!」