恋心



「ありがと…」


「おー」



と、その時だった。


相原のカバンから携帯が鳴り響いて。


カバンからそれを取り出した相原は、ジッと画面を見つめたまま出ることを躊躇っているように見えた。


あいつか…


「出れば?俺帰るし」


「あっ…うん…」


相原はそう言うと、フーッと息を吐いて俺から少し距離をあけると電話を耳元に当てた。


何電話ごときで緊張してんだか。

そう思いながら俺は自転車にまたがろうとした。



「はい…あっ、すいません。はい…ちょっと今日体調悪くて…連絡しようと思ってたんですけど…病院行ってて」



だけど、聞こえてくる言葉にそっと耳を済ませる。


病院?
体調悪い?



「あっ、はい。はい…すいません、以後気をつけます。バイト人数大丈夫ですか?あっ、はい、分かりました…ありがとうございます、はい失礼します」



バイト?

バイトって…



「おい」


「何?」



少し距離のある俺達の間。



「お前、バイトだったの」


「えっ?あ…うん」



あいつだと思っていた電話の相手は、相原のバイト先からだった。


もしかして…俺のせいで?



「ごめん…何か変なことに巻き込んで…バイトまでサボらせちまって」


「えっ、ううん、大丈夫。ちょうど休みたいなーって思ってたんだ」


「えっ?」


「聞いてくれる?バイト先に対面恐怖症とかいう人と接するのが苦手な人がいてさー」



相原はそう言うと、傘を閉じてバス停のベンチまで歩くとそこに腰掛けた。



「っていうか屋根あるしここ。そこいたら濡れるよ?」



そして突っ立っている俺にそう言うと、また勝手に話を始める。



「でね、その人西田さんっていうんだけどさ。あ、あんた分かるんじゃない?メガネのちょっとロン毛のここにホクロある人」


「あー!あいつか!」



< 218 / 278 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop