恋心

「なっ、何？」

「いーよ、お前から言えよ」

「いーって、先に言いなよ」

「いやお前からだ」

「あんたから言えばいいじゃん」

「レディーファーストだ、お前から言え」



そんなやり取りの後、呆れたように笑って先に口を開いたのは相原だった。




「あのさ、この前のことなんだけど。あの…永瀬先輩と一緒にいた時の」


「あぁ、交差点でアツーク見つめ合ってた時の話？」



チャチャを入れるように俺がそう言うと、相原はムッとしたような顔で俺の脇腹にボスッとパンチして。



「別に見つめ合ってたんじゃないし。あの時偶然会って、それで…また調子いいこと言ってきたから…もう騙されないって言ってやろうと思ってたの」


「へぇーっそうなんだ」


「そしたらあんたが現れて、おもしろいとか訳わかんないこと言って走っていっちゃって」


「そうだっけ？」


「あんたに勘違いされたかもって思ったから、余計に先輩にイライラしてさ。もう騙されない！って言ってやったの。それにあんたのこと悪く言ってきたから…先輩の方が最低だ！って。好きだったのは顔だけで中身は最低だって。言ってやったんだ」


「ふーん…そうなのか…」



縺れていたものが、少しずつほどけていく。


間違って受け取めていた出来事が、実はそうではなくて。


スルスルとほどけていくと、あんたに苛立っていた自分がすごく呆気なく思えた。