恋心



水の音は、キライだ。


この音は、今でもなんか、好きになれない。




頭を洗いながら、今日もまた、あの冬の日のことを思い出す。




「冷たいよう…」



若菜が泣いてた。



「お母さんは?ねぇ、お兄ちゃん」



泣いて、震えてた。





何でだ?

何で冷たい水しか出ないんだ?




まだ幼かった俺は、

冷たい水しか出なかったシャワーと、泣きじゃくる若菜の顔を見て、怖くなって若菜と一緒に泣いた。




あの女が出て行った夜。


遅くまで帰ってこなかった親父。



腹が減って、冷蔵庫にあったゼリーを二人で食べて。


「お風呂入ろう」



そう言った若菜と、風呂に入った。




いつもなら、浴槽に湯が貯められていて、湯気の立っていた風呂場。



だけどあの時は、

ひどく寒かったことをよく覚えてる。





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