未熟な天使 *恋と心理学と彼とわたし*
前へ向きなおる ――



あたしが引っぱっても動いてくれなかった黒板を少しだけ下げて。

長い腕を伸ばした彼は、高い位置に書かれた文字も楽々と消した。



いつの間に……どうして?


誰もいなくなったと思ってたのに。


いつもは、日直の仕事なんてしないくせに……。



「次、体育だから早くしないと遅れちゃうよ?」


背中に声をかけた。

すると彼は、黒板消しを持った手を動かしたまま答えた。


「早くしないと遅れるのは同じだと思うけど、時田も」


そして、こっちを向く。


辻之内の真っ直ぐな眼差しに、なんとなく視線を逸らしてしまう。



「時田?」


「…なに?」


「明日、一緒に横浜へ行ってくれないかな」
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