僕と黒猫が奏でる音楽
いや、ひとりだけいる。
名前も年齢もわからないがいつも同じ時間にやってくる、ひとりの女性が。
ほら、今日もまたやってきた。
艶のある真っ黒な長い髪。
今日も真っ黒な服装。
それらとは反対なきめ細かい真っ白な肌がより引き立つ。
整った顔立ちにすらっとした手足。
見た目からして20代前半のOLってとこだろう。
彼女はここ二週間近くこんな寒い夜の中毎日来てくれる。
だけど、まだ一度も話したことはない。
俺と彼女の間には俺の歌う歌だけだ。
歌い終わると何も言わず、そっと微笑む。
だけど、俺にはどこか悲しそうに見える。目が全然笑っていない。
彼女はいつもそれだけで立ち去って行く。
俺の歌で少しでも勇気付けられたら嬉しい。
音楽ってホントにすごい。