遠い坂道
学ランとセーラー服が体育館内に密集している。
男子生徒の制服には詰襟と袖口にラインが、女子生徒の制服には襟に三本ラインが入っており、一年は青、二年は緑、三年は赤と色分けされていた。上履きの色も同様だ。
生徒達が騒ぎながら体育館を退場する。数年前までは自分も彼らの位置にいたのだと思うと、不思議な気分になった。
「高崎さん、しっかりね」
「……はい」
生真面目そうな銀縁のメガネをかけた学年主任の角松先生に背中を押され、私は肩を強張らせて歩き出す。腕に抱いた出席簿をギュッと握りしめた。
言っておくが、別に嫌なわけじゃない。しかし、体育館から渡り廊下を通って、校舎二階にある三年五組の教室へ向かう足は重かった。
担任であるはずの村上先生は本日遅れて来ると聞いたのは、始業式が始まる十分前のことだ。
『えっ?』
顔面蒼白となった私に、同じ三年生を受け持つ男性教師・笹木先生が同情の目を向けた。
『村上さん、今日が娘の中学校入学式なんだって。ああ、そんな顔しないで。大丈夫だよ。ホームルーム終わったくらいには来ると思うからさ』
何が大丈夫なもんか。
ホームルームこそ、いてほしかったのに。
てか、娘の中学校の入学式? そんな理由で休むなんて……いや、大事かもしれないけど。でもさあ……。