遠い坂道
「はいっ、乾杯!」
ビールジョッキを掲げて、私は号令をかけた。
その場に集った同じゼミをとっている者達は一斉に飲み始める。
「それにしても。まさか、真琴(まこと)まで落ちるとは思わなかった~」
甘ったるい香水を漂わせたホウコがすり寄って来る。それを愛想笑いでかわして、私はビールを呷った。
親父さながらにプハッと息を吐き出す。
「オッ、高崎。良い飲みっぷりだな。そんなんじゃ彼氏出来ねーよ。もっと、可愛らしくカクテルでも頼んだらどうだ」
飲み始めてまだ十分程度しか経過していないのに、顔を真っ赤にしたタケルが笑った。
「うっさい」
……はっ、飲まずにいられますか。
私はあんたと違って、この採用試験に心血を注ぎ込んでいたんですよ。落ちたら家業を継ぐっていう逃げ道がある奴はうらやましいことで。
私、高崎真琴(たかさきまこと)は、このたび公立高校の教員採用試験に不合格となりました。
そして、ここで陽気に酒を呷っている皆も同じ。
人間、ショックが過ぎると陽気になるというけれど、彼らはもとからこうなので教員試験に落ちたことはあまり関係ない気がする。
多少は気落ちしているだろうが、何とかなるさ精神の持ち主達である。すぐに立ち直るに決まっている。
「気を落としちゃ駄目だよ、真琴。あんたにはまだ私立高校の採用試験が待ってるでしょ」
「……友美子(とみこ)」
高校からの友人・山梨友美子の励ましに、少しだけ気分が浮上した。