遠い坂道
一昨年、私の目の前で起こった交通事故。今も鮮烈に覚えている。
生きていたのだ。
良かった、と素直に思う。
対する荒木君は私を覚えていないのだろう。一度目を合わせたきり俯いて、何の反応も示さない。
「高崎先生?」
「どうしたの?」
「え、ああ。ごめんね――続けます。入江将太君……」
一通り、クラス全員の名前を読み上げた。
私は今日の流れを説明する。
このあと三時限目に進路オリエンテーションが行なわれ、そのまま解散となるためカバンを持って行くこと。明日から普通どおり授業が始まるという旨をしっかり伝えた。
「以上で連絡事項は終わりですが……質問はありますか」
「はいっ」
元気よく坊主頭の少年が手を上げた。私は出席簿で彼の名前を確認する。
「はい、藤田君」
「高崎先生って彼氏いたりするの?」
「おいおい、藤田~。そんな質問すんなよ!」
「よく聞いた」
「てか、先生って何歳?」
すぐ盛り上がるクラスだなと私は感心した。
今どきの子供は冷めている。
こうやってすぐお祭り騒ぎの如く盛り上がるクラスは稀だった。