遠い坂道


「彼氏はいます。年は二十三歳です」


「いいなあ! カレシってやっぱり年上の人ですか?」


 彼氏ありと言った途端、女子生徒が食いついてくる。

 そういうことに興味がある年齢なのだ。自分はどうだったかと思い出してみた。


 友美子や他の友人達に無理矢理合コンへ担ぎ出されていたっけ。そして、出会った男の強引な押しに根負けして……いかん。そんなに良い思い出が浮かばない。




 そのあとも生徒達からのプライベートな質問をのらりくらりとかわし、無難な答えを返した。



 こういう時、ベテランの教師はどうやって対処していただろうか。必死に記憶を辿る。しかし、思い出せない。




 ――ああ、村上先生。早く来て下さい。この質問地獄からお助け下さい。



 私は天を仰ぐ。




 荒木美都夜は一度もその輪に入ってこなかったし、見向きもしなかった。



 ただ一人、微動だにせず俯いていた。





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