遠い坂道



 ……最悪。




 荒木美都夜は結局、体育館に姿を見せなかった。


 そのせいで、私は村上先生から悲しい顔をされたのだ。



 ああ、使えない副担任と思われていたらどうしよう。


「仕方ないさ。荒木が相手だったんだろ? 俺でも手を拱《こまね》くさ」


 笹木先生はそう慰めてくれたけど、これは私の失態である。

 すぐ追いかけて止めていれば、荒木君は進路オリエンテーションに出席していたかもしれない。


「いやぁ、荒木君が教室へ来たことが奇跡に近いってば」


 家庭科担当の花房佳織(はなぶさかおり)が、爪の手入れを行ないながら神妙に頷く。

 花房さんと私は年が近く、同期に当たるのだが、ブランド志向の彼女とは話が壊滅的に合わなかったりする。


 はあ、と私は間の抜けた返事をした。


 職員室の中は、教師でごった返していた。

 先ほどまで職員会議が行なわれていたためである。新学期最初の会議だから、いつもより若干長めだった。


 その席で、私は荒木美都夜の件について、角松学年主任からたっぷりお小言を頂いたのだ。


 自分の机の上に置いた書類をクリップやファイルに入れて整理する。


 ようやく一息吐ける。

 中庭でもブラブラしようと思い立ち、心配してくれる笹木先生や花房先生に断わって職員室を後にする。



 うう……。角松学年主任の視線が痛い。



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