遠い坂道
息が詰まる職員室のドアを閉めて、新鮮な空気を胸いっぱい吸い込んだ。
午後の陽射しが明るく廊下を照らす。
少しだけ肌寒いと思ったのは、職員室に暖房が入れてあったせいだ。
カーディガンを羽織るだけでも十分外へ出られる。
私は職員用下駄箱でローヒールのパンプスを摘まみ出した。随分と履き込んでいるから、へたれている。
もうそろそろ換え時だろう。
全面ガラス張りの観音扉のドアを押した。鼻先がつんとする。意外と風が強い。
砂利が散らばっている中庭をゆっくり散策する。所々に置かれた木のベンチは生徒達の憩いの場だ。今も数人の生徒がそこへ座り、お喋りに興じている。
ふと、風に乗って苦い匂いがした。
(まさか……)
私は足早に、匂いがする方へ向かう。
思ったとおりの光景がそこにはあった。
非常階段の一番下から、一筋の煙がのぼっていく。青空に向かって吐き出されたそれは、春風に乗って揺らめいた。