遠い坂道
「頑張らなくちゃ」
「うん、頑張って」
のんびりした声が後ろから飛んできた。
驚いて後ろを振り返ると、そこには笹木先生が立っていた。
焦げ茶のパーマは寝ぐせなのか、そういうものなのか判断し兼ねる。彼はメガネの奥にある薄茶の目を眠たげに瞬かせた。
折角、スーツでキメているのに……だらけているのは非常にもったいない。
「おはようございます」
礼義として、ペコリと頭を下げた。
「おはよう」
笹木先生も同じように頭を下げてくれる。
「高崎さんは朝から元気だね~」
くわ、と笹木先生は欠伸をした。
私は曖昧に返事をした。
彼と出会って二年目になるが、どうも信用ならない。職務に対して不真面目ではないのだが、一切のやる気を感じないのだ。
「今日から授業か……だるいね」
「笹木先生、不謹慎です」
「はぁ。君はホント、真面目だよ」
笹木先生は肩を竦める。
……彼に真面目と言われると、馬鹿にされているように感じるのは気のせいだろうか。
朝の職員会議の時間が差し迫っている。私達は小走りで職員室へ急いだ。