遠い坂道



 ……言い方がおかしいと思われるかもしれないが、確実に私の視界は白く染まった。

 響いたのはブレーキを踏みこむ音。
 そして、何かにぶつかったような鈍く暗い音。


 視界が奪われたのは、車のライトのせいだと気づいたのは数秒後のことだった。


 しかし、次の瞬間にはそのようなこと問題でなくなった。



 開いた口が塞がらない。


 腰が抜けそうになる。

 私の目の前で、人が倒れていた。

 しかも二人。


 彼らはピクリとも動かない。二人をはねたと思われる車は、猛スピードでその場から逃げ出した。



 信号機が点滅し出す。

 大通りに面しているこの横断歩道は人のとおりが多い。


 真夜中と言っても、残業帰りの会社員や遊んでいる若者たちが大勢いる。

 私以外にもその現場を目撃していた人はいた。
 そのうちの一人が携帯電話を取り出して、素早く警察と救急車の手配をしている。


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