遠い坂道
コンコン、とノック音が響いた。
ん、と首を回して戸口近くにある時計を見た瞬間、顔が引き攣った。
「ゲ」
「…………?」
鳥の首を絞ったような声を上げる私に、荒木君は怪訝そうな目を向ける。
『いい? 高崎さん。六時半には定例の職員会議があるから……ちゃんと来るように』
学年主任の角松先生の言葉が蘇った。
やばい。
きっと、会議はもうとっくに終わっている頃だろう。
――あまりに荒木君を教えることが楽しすぎて、職員会議のことをすっかり忘れていました。なんて角松先生に言おうものなら、睨みつけられるに決まっている。
「開けねえの?」
私が何と言い訳をしようか考えているのも気付かず、荒木君はイスから腰を上げて戸を開けに行こうとする。
「ちょ、ちょっと待った!」
私は慌ててそれを止めようとしたが、扉は一人でに――もとい、ノックの主によって開けられてしまった。