遠い坂道
次第に人が集まってきた。
私は体中の力が抜けてしまって、その場にへたり込んだまま動けなかった。
膝が笑っている。耳鳴りがし出した。
「あ……」
うつ伏せで倒れていた一人の少年がこちらに弱々しく右手を伸ばしてくる。
私は反射的にその手を取った。
暗がりでも一際目を引くアッシュグレーに染めた髪をした彼は、とても綺麗な顔を歪めて涙を湛えた。
「ひ……だりうで。うごかな……」
かすれた声で必死に訴えてくる少年の言葉を、私は耳鳴りが止まぬ耳を澄まして聞きとった。
きっと骨折してしまったのだろう。
私は力強く頷き、言葉を返す。
「もうすぐ救急車が来るからね。負けないで」
少年は血の気の失せた顔で頷く。そして、再び唇を動かした。
「……カツ……キは……?」
私は、少年がカツキと呼んだ――もう一人の少年の様子を素早く見やった。
カツキという少年は仰向けに倒れており、こめかみから大量の血が噴き出している。しかも、腰から下は変な方向に曲がっていた。
サラリーマン風の男が携帯電話片手に、自らのネクタイを外して止血作業をを行なっている。
救急隊と話しながら応急措置をしているのだとすぐにわかった。
思わず、目を逸らした。