遠い坂道
「高崎さん、いる?」
「あー……はい」
だるそうな顔に笑みを添えた笹木先生に、ホッと胸を撫で下ろす。角松先生だったら、どうしようかと思ったよ。全く。
荒木君の方を見向きもせず、笹木先生は気軽に相談コーナーへ足を踏み入れた。
「なーに職員会議サボってるんだ」
「すみません」
「角松学年主任、かなりご立腹だったから謝って来た方がいいよ」
「はい」
「ほらほら、職員室に行こう」
「あ、はい。……荒木君、ここ閉めるから、帰り支度して」
「…………」
私は笹木先生に急き立てられながらも、荒木君に声をかけた。荒木君は嘆息し、教科書類をカバンにしまい出した。
刹那、笹木先生と荒木君の目が交錯する。
別段嫌悪が滲んでいるわけでない双眸。
しかし、何の色も持たない二人の目は、私の背筋をうすら寒くさせた。