遠い坂道
土曜の昼下がり。私は駅前のオープンカフェで友美子とお喋りに興じていた。
「もう、それで超ムカついてさ。『あんた何様?』って言ってやったわ」
「さすが友美子。私には絶対出来ない」
「ふん。何にもわからない後輩だから優しく~、なんて先輩達は甘いのよ。後輩だからこそ、厳しく接しなきゃ。あの子もこれから社会の波に揉まれるんだから、早いうちに厳しさを知ってた方がいいでしょ?」
「その通りだと思う」
友美子が腰かけているイスの隣には、これ見よがしに高級ブランドの紙袋が積んであった。
現在、私は彼女の買い物に付き合わされた挙句、愚痴やノロケ話をたっぷりと聞かされていた。いつものことながら、彼女と遊ぶとカフェでおかわりを頼む回数が半端ない。
それにしても、友美子が土曜休みとは珍しいこともあるものだ。ショップ店員は休日こそ稼ぎ時である。
「でさあ……」
「うんうん」
「これがまた美味しくて……」
「へえ」
「てか、この前の合コンで会った人が……」
「すごいね」
投げやりな相槌を打ちながら、私は頬杖をついて駅前の大通りを行き交う人々を観察していた。
休日ということもあり、仲良く手を繋いでいるカップルが多いこと多いこと。
この駅には巨大なショッピングモールも入っているから、絶好のデートスポットだろう。
もちろん、私は彼氏とこんな場所に出かけたことはない。彼氏と出かける先は、もっぱらファーストフード店かゲーセンだ。
「…………あ」
と、ちょうど道路を挟んだ向かいにある書店から、見知った人が出てきた。右手に剥き出しの雑誌を持っている彼は、街中にいても異彩な雰囲気を放つ。
道行く女の人達が、彼を横目見ながら通り過ぎていく。明らかに目立っている彼は、自分に向けられている視線に気付きもせず、足早に歩き出した。