遠い坂道
目下の悩みは、自分が担当する相談コーナーのことだった。
先任の福井先生はいつも荒木君の相手をしていたのだろう。
というか、ちゃんとクラスへ行くよう指導していたのだろうかと疑問に思う。そう思ってしまうくらい、荒木美都夜は頻繁に相談コーナーへ足を運ぶ。
彼は私が国語の授業を行なっている間も相談コーナーに居座り、黙々と勉強していた。
あまりによく顔を突き合わせるため、最近は会話に困るようなこともなくなった。しかし、このままではいけないと思う。
これでは保健室登校のようなものだ。
そもそも、荒木君が授業へ出席せずとも単位をあげているのが問題なのだ。
別に彼の相手をするのが面倒くさいわけじゃない。ただ――。
「村上先生、ちょっとお時間よろしいでしょうか」
「うん?」
「どうしたんだい、高崎さん。そんな怖い顔をして」
ちょうどいいタイミングで、喫煙所から戻ってきた村上先生を捕まえることに成功した。
……軽い調子の笹木先生までくっついてきたのは複雑だ。
私は唾を飲み込んで、思い切って荒木君のことを話した。このままでは絶対に荒木君が教室へ足を運ぶことがないだろうこと、そしてもっと荒木君と今後のことを話し合った方がいいのではないかということ。
その瞬間、職員室の温度が氷点下まで落ち込む。え、何この空気。