遠い坂道
村上先生だけが、黙って私の意見に耳を傾けてくれていた。
「今どき珍しい熱血教師だね」
「はあ……」
別に笹木先生に言ったわけじゃないし。
笹木先生は焦げ茶色をしたパーマ頭を掻き上げつつ、短く息を吐いた。彼の銀縁メガネが蛍光灯の明かりを反射する。
「荒木美都夜の件は、君の関与することじゃないよ」
「でも……」
「君は副担任だろ?」
いつもの不真面目さはどこに行ったのか、笹木先生は先輩の面差しをして私に言う。
「担任には担任の考えがあるんだ。村上先生も荒木のことはちゃんと考えてる。悪いようにはきっとならない」
「…………わかりました」
ここまで言われたら、引き下がらざるを得ない。私はムッとした表情を表に出さないよう注意しながら自分の席へ戻ろうとした。
「高崎さん」
柔和な声が私を引き止める。振り返れば、村上先生が微笑んでいた。
「荒木の件はちゃんと対策を練るから。それまで、相談コーナーで相手をしてやってくれないか」
「はい」
「ありがとう。あいつは本当に良い奴だから……頼む」
村上先生はそう言って頭を下げた。
職員室にいた先生達は全員が全員、村上先生の言葉を否定するかのように、肩を竦めた。
笹木先生も他の先生同様、苦虫を噛みつぶしたような顔をして視線を逸らした。