紅月 -AKATSUKI-
Ⅷ【歪んだ果実は洗濯機へ】
「わからないの」
右頬を叩かれる。
「ねぇ、なんなの?」
お腹を殴られる。
「このモヤモヤする気持ちは」
大きな石で頭を殴られる。
「教えてよ」
ナイフを向けられる。
「いますぐに」
ナイフを振り上げる。
周りから見たら残酷なその行動を真っ正面から受けた僕は、ジンジンと痛む頭を押さえながらキミを見上げる。
「あいしてる」
キミの持つナイフが、カタカタと小刻みに揺れている。
「あいしてるから」
「キミは僕を殺せないし」
「キミは僕を愛せない」
カタン、と音をたてて落ちたナイフなんか目もくれず、ただただ揺れるキミの瞳を見つめた。
だってそうでしょう?
僕がキミを愛しているように。
キミも僕を愛している。
けれど僕を愛しすぎて、キミは殺意を覚えてしまったんだ。
一般的に、殺意が芽生えてしまった人に愛なんかを注がない。ただただ、殺したいという衝動があるだけ。
だからキミは僕を愛しているけれど、それと同時に殺したいと思っている。
けれど殺せない。
僕を愛しているから。
けれど愛せない。
殺意が邪魔をするから。
苦しいんだよね?
イライラするんだよね?
でもドキドキしてるんでしょ?
そんなキミを、僕は。
「あいしてるよ。
キミを、殺したいくらいに」
こんな僕らは、歪んでますか。