紅月 -AKATSUKI-
Ⅷ【歪んだ果実は洗濯機へ】

「わからないの」


右頬を叩かれる。


「ねぇ、なんなの?」


お腹を殴られる。


「このモヤモヤする気持ちは」


大きな石で頭を殴られる。


「教えてよ」


ナイフを向けられる。


「いますぐに」


ナイフを振り上げる。


周りから見たら残酷なその行動を真っ正面から受けた僕は、ジンジンと痛む頭を押さえながらキミを見上げる。


「あいしてる」


キミの持つナイフが、カタカタと小刻みに揺れている。


「あいしてるから」

「キミは僕を殺せないし」

「キミは僕を愛せない」


カタン、と音をたてて落ちたナイフなんか目もくれず、ただただ揺れるキミの瞳を見つめた。


だってそうでしょう?


僕がキミを愛しているように。

キミも僕を愛している。

けれど僕を愛しすぎて、キミは殺意を覚えてしまったんだ。

一般的に、殺意が芽生えてしまった人に愛なんかを注がない。ただただ、殺したいという衝動があるだけ。


だからキミは僕を愛しているけれど、それと同時に殺したいと思っている。

けれど殺せない。
僕を愛しているから。

けれど愛せない。
殺意が邪魔をするから。

苦しいんだよね?

イライラするんだよね?

でもドキドキしてるんでしょ?


そんなキミを、僕は。


「あいしてるよ。

キミを、殺したいくらいに」


こんな僕らは、歪んでますか。

< 8 / 10 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop