渡せなかった手紙の話
渡せなかった手紙を話
ゆらゆらと風に揺れるのは長い黒髪…
それはまるで日本人形のように美しかった。

ベッドの上から窓越しに見る彼女は、僕の事を知らないのかもしれないけれど






『ねぇ郵便屋さん。彼女に手紙を書くから届けてくれ』




僕は彼女を愛しく思っていた。




郵便屋は僕の視線を追ってすぐに『彼女』が誰だかわかった。




「何故手紙を書くのですか?」



『もちろん書きたいからさ』



僕が即答すると郵便屋は首を横に振った。






「手紙を届ける事は出来ません」







『……どうして?いきなり手紙を渡すと失礼だから?』



郵便屋は首を横に振った。



『別に今日じゃなくても良い。郵便屋さんが忙しくない時でも』




郵便屋は首を横に振った。



『……じゃあどうして駄目なの?』



郵便屋は口を開けば、面白い事を僕に言った。








「人形だからです」




人形…?





『あはははははは!人形だからって…ふは!彼女が人形なんてありえない』





「人形です」




『郵便屋さん、なかなかユニークな事言うね。面白いよ!あんなにさらさらした髪に柔らかそうな肌…とても人形には見えないな』






僕は可笑しくて可笑しくてまた笑ってしまった。








「人形です」








郵便屋は言葉を続けた。











「あなたは人形です」







僕は笑い声にかき消されたその言葉に

今も気付けないでいた。




END.
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