運 命
突拍子もない提案
<準嗣SIDE>

 俺が初めて夏歩に逢ったのは,23歳も終わりに近づいた頃だった。ちょうど梅雨のじめじめした天気が,初夏のからりとした晴れへと変わる頃…まさに,「夏」が「歩」いてきた頃だった。その時俺はまだ大学4年生で,少ない仕送りを補うためにもいろいろなバイトを掛け持ちしていた。塾の講師,本屋の店員,それから,とある音楽教室の,ギター講師。俺は昔から,ギターを弾くのが好きだった。演奏するだけにとどまらず,作曲なんかもしていた。―もちろん,趣味の範囲ではあったが。まだ浅はかだった頃は,ギターを職に持てたら,と思っていた。講師などではなく,一人の演奏家として。しかし,そういう世界は厳しい。ギターが大好きだという気持ちだけでは食っていけない。恵まれた才能と,一握りの運…それも不可欠な要素だということは,百も承知だった。
けれども俺は,講師としてギターと関われることに十分満足していた。もう一人のギター講師―彼はバイトではなくこれを職としていた―は,30代半ばの,同性の俺から見てもかっこいい男だった。名は,岡田智浩。ギターがなんとも似合う,そんな人で,俺はこの智浩さんとはすぐに仲良くなることができた。
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