運 命

まだ梅雨真っ只中のある日,俺は降りやまない雨にうんざりしながらもギターのﾚｯｽﾝを終え,講師用の控え室に戻った｡
智浩さんは読んでいた映画雑誌から顔を上げてちらりと俺を見ると,机の上の缶ｺｰﾋｰを顎でさした｡
「お疲れさん｡そろそろ終わると思ってｺｰﾋｰ買っといたよ,篠原準嗣ｸﾝ」
「はあ…どうも｡…いいかげん俺のことﾌﾙﾈｰﾑで呼ぶの,やめてもらえます?」
どさりと椅子に腰かけ,缶ｺｰﾋｰをあけながら,無駄と知りつつもう何度めになるかわからない言葉を口にした｡
「んｰ?だって篠原準嗣って語呂がいいだろ?」
智浩さんは智浩さんで,いつもと同じわけのわからない答えを返してくる｡
「…はいはい｡」
ため息をついて適当に返事をしながら,伸びをした｡これだから梅雨は嫌だ｡気分が全然盛り上がらない｡
あー…だる…｡