運 命
ほんのり淡い恋心
<夏歩SIDE>

 土曜日。今日はピアノの日だ。
ピアノは3時に始まる。今は―…2時40分。
私は楽譜をファイルにしまいこみ,そのファイルを更にバッグにつっこむと,パンプスをひっかけて慌てて外に飛び出した。
北海道の6月の陽射しは,まだ少し春の柔らかさを残しながら,私に降り注いでいた。近くの公園のシラカバの木が,青々とした葉をつけ始めている。
「…夏かあ-。」
目を細めてゆっくりと空を泳いでゆく雲を眺めながら,私はにっこりした。
「…っと,早く行かなきゃまた遅れちゃう!」
遅ればせながら景色にみとれている暇はないことに気づいた私は,ピアノに時間通り間に合うよう祈りながら,走り出した。
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