山田さん的非日常生活
「………、」
「………、」
なんだか、気まずい。
…ものすごく。
普段は店員と客だから、こう道で会うと自分の役割がわからない。
それに昨日、押しつけてしまったピンクの箱。
…今更になって後悔した。
「あ、じゃあ…」
「昨日はありがとうございました、山田さん」
話すにしては不自然なほど離れた距離。
カボの声に、引き返そうとした体を止めた。
「おいしかったです、チョコケーキ」
「…あ、それは…どうも」
「でも山田さん」
「…はい?」
「僕の名前は、多喜川じゃないです」
一瞬、頭が凍った。
…冷凍。
プリンって、冷凍庫に入れたらシャリシャリになるんだろうか…ってそんなことはどうでもよくて。
─てっきり忘れてた。
ケーキと一緒に、カードも入れていたこと。
最悪。あたし、何て書いた?
一生懸命作ったんで、良かったら食べてください、とかそんな、可愛らしいこと、まさか。
「…………。」
…書いたよ。
ああ、ほんと最悪。
恥ずかしくて悶え死にしそうだ。窒息死しそう。とにかく死にそう。
でもそれよりも…目の前の彼の表情が気になった。
あんなに喜んでいたのに…カボは、どんな思いをしたのだろうかって考えると。
舞い散る雪がカーテンのようで、彼の顔が上手く見えない。
.