山田さん的非日常生活
「…山田さん」
黙りこくっていると、サク、と一回…前へ踏み出る音がした。
「僕にじゃないことくらい、わかってました。でも…山田さんから貰えて嬉しかったんです」
頭の中で、早送りの映像が流れる。
握りしめた手のひら。
念入りに塗ったリップ。
窓から見た彼と彼女。
…渡せなかった、バレンタイン。
「山田さんが渡したかったのは僕じゃないけど、でも、」
好きだったんだ、
『差し入れ。』
…すごく。
「でも…おいしかったです。なんか、すごい気持ちがこもってるなぁって」
…山田さんの気持ちが、いっぱいこもってるなぁって。
舞い散る雪が、白く滲む。
「…すごくおいしかったです、山田さん」
滲んで、そのまま零れ落ちた。
サク、と歩み寄る足音が三回ほど。
ポンポン、と撫でられた頭にはきっと雪が積もってて。
「…ありが、と…っ、」
それでも、なぜかあったかかった。
…暖かかったんだ。
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