山田さん的非日常生活
二人、手を繋ぎながらゆっくりと道を歩く。
曇り空だったからか星はほとんど見えなくて、空には月だけがぽっかり浮かんでる。
パンケーキみたいな、まんまるいやつ。
「…あのさぁ」
「え?」
「花束なんて買ってきて。バイト、あたしが入ってなかったらどうするつもりだったの?」
花なんてすぐしおれちゃうし、バラとか絶対高いのに。
「梢さんから教えてもらったんです」
「……えっ」
「今日山田さんが入ってるから、会いにいくといいって」
"とにかく明日!絶対出てよね!!"
…ただの横暴かと思ってたけど。
もしかして梢さん、早く仲直りできるように取り計らってくれたんだろうか。
黒い闇の中に、吐いた息の白が混じる。
指先まで冷たいけど、カボとつないでる方の手はあたたかい。
…それにしても、だ。
あたしはバイトの制服なままで、どうしても着替えに帰らなきゃいけないわけで。
あんな駆け落ちのごとく出て行ったのに、またこうして来た道を戻らなきゃいけないって、すんごい滑稽なんですけど。
帰ったらまたあのなまあたたかーい視線にさらされると思うと、羞恥死にしそうだ。
しかもクラスメートにまで目撃されて。明日絶対学校で広まってるから。
…うわ、すんごい行きたくないんですけど。
.