山田さん的非日常生活

二人、手を繋ぎながらゆっくりと道を歩く。

曇り空だったからか星はほとんど見えなくて、空には月だけがぽっかり浮かんでる。


パンケーキみたいな、まんまるいやつ。


「…あのさぁ」

「え?」

「花束なんて買ってきて。バイト、あたしが入ってなかったらどうするつもりだったの?」


花なんてすぐしおれちゃうし、バラとか絶対高いのに。


「梢さんから教えてもらったんです」

「……えっ」

「今日山田さんが入ってるから、会いにいくといいって」



"とにかく明日!絶対出てよね!!"



…ただの横暴かと思ってたけど。

もしかして梢さん、早く仲直りできるように取り計らってくれたんだろうか。


黒い闇の中に、吐いた息の白が混じる。

指先まで冷たいけど、カボとつないでる方の手はあたたかい。


…それにしても、だ。


あたしはバイトの制服なままで、どうしても着替えに帰らなきゃいけないわけで。

あんな駆け落ちのごとく出て行ったのに、またこうして来た道を戻らなきゃいけないって、すんごい滑稽なんですけど。

帰ったらまたあのなまあたたかーい視線にさらされると思うと、羞恥死にしそうだ。

しかもクラスメートにまで目撃されて。明日絶対学校で広まってるから。

…うわ、すんごい行きたくないんですけど。


.
< 169 / 235 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop