山田さん的非日常生活

そもそもあたしのタイプは、堅実かつ真面目な収入の安定した男性だったはずだ。


何かの間違いだ。


─好き、だなんて。


違う。違う違う違う。あの日は失恋したばっかりだったから、その時ちょっとだけ、優しくしてくれたカボがカッコ良く見えたから、だから。

…だから。



一人頭の中でぐるぐると考えを巡らせていると、隣から聞こえてきたのは間抜けな歌声。


「どーれーにーしーよーうーかーな、てーんーのーかーみーさーまーのーいーうーとーおーりー」

「………。」



…やっぱり、何かの間違いだ。



悩みに悩んで結局カボが選んだのは、あまりにもありふれた昆布と鮭の組み合わせだった。天の神様の言うとおり。ツッコミどころもありゃしない。

その上ピクニックにはおにぎりです、と抜かしておきながらカゴにはちゃっかりデザートのプリンまで収めているのだから。


「…120%クリームプリン」


また走り始めた車内、その容器にデカデカと書かれた文字を読み上げる。

…どんだけクリーム入れたら気が済むんだろう。

「カボはさ、」

「はい?」

「…プリン好きだよね」


隣のカボは、まるでプリンを口に含んだ時のようにふんわりと、甘ったるい笑みを浮かべて頷いた。


「でも一番はにこにこマートのプリンです」

「ふーん…」


にこにこマート。あたしが働いている、コンビニの名前だ。どんな時でもスマイル0円。


「さっきのコンビニより…というか、どのコンビニよりにこにこマートが好きです!」

「…カボチャプリンがあるから?」


見上げるように尋ねると、逆光の中ちょうど彼と目があった。


「…内緒です」


くしゃりと崩れたはにかみ笑い。

例えるなら─それはクリーム120%。


無駄に照れたように彼が笑うから、なんだかこっちが恥ずかしくなって目をそらした。


「…あっそ」


…そんな笑顔浮かべられても、全く可愛くないですけど。


< 19 / 235 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop