山田さん的非日常生活
そもそもあたしのタイプは、堅実かつ真面目な収入の安定した男性だったはずだ。
何かの間違いだ。
─好き、だなんて。
違う。違う違う違う。あの日は失恋したばっかりだったから、その時ちょっとだけ、優しくしてくれたカボがカッコ良く見えたから、だから。
…だから。
一人頭の中でぐるぐると考えを巡らせていると、隣から聞こえてきたのは間抜けな歌声。
「どーれーにーしーよーうーかーな、てーんーのーかーみーさーまーのーいーうーとーおーりー」
「………。」
…やっぱり、何かの間違いだ。
悩みに悩んで結局カボが選んだのは、あまりにもありふれた昆布と鮭の組み合わせだった。天の神様の言うとおり。ツッコミどころもありゃしない。
その上ピクニックにはおにぎりです、と抜かしておきながらカゴにはちゃっかりデザートのプリンまで収めているのだから。
「…120%クリームプリン」
また走り始めた車内、その容器にデカデカと書かれた文字を読み上げる。
…どんだけクリーム入れたら気が済むんだろう。
「カボはさ、」
「はい?」
「…プリン好きだよね」
隣のカボは、まるでプリンを口に含んだ時のようにふんわりと、甘ったるい笑みを浮かべて頷いた。
「でも一番はにこにこマートのプリンです」
「ふーん…」
にこにこマート。あたしが働いている、コンビニの名前だ。どんな時でもスマイル0円。
「さっきのコンビニより…というか、どのコンビニよりにこにこマートが好きです!」
「…カボチャプリンがあるから?」
見上げるように尋ねると、逆光の中ちょうど彼と目があった。
「…内緒です」
くしゃりと崩れたはにかみ笑い。
例えるなら─それはクリーム120%。
無駄に照れたように彼が笑うから、なんだかこっちが恥ずかしくなって目をそらした。
「…あっそ」
…そんな笑顔浮かべられても、全く可愛くないですけど。