山田さん的非日常生活
にこにこマート、24時間営業のコンビニ。
モットーは、スマイル0円。雨が降ろうが、車が突っ込んでこようが、スマイル0円。
ここであたしは、学校終わりにバイトに入らせてもらっている。
高一の頃からだから、もう丸々一年半だ。
「…店長、これなんですか」
バイト終わり。
チェックしにいったシフト表に、勝手にあたしの名前が書き込まれていた。
「ああ、山田さんどうせ暇でしょ?14日」
…ヒマそうで悪かったな。
ハゲかけた頭をイヤミなほどに光らせてこちらを振り返った店長。
おでこからの反射光は神々しいほどだ。仏様。拝みたくなる。
荒々しく殴り書きされたヤマダの文字。
2月14日。バレンタイン。
クリスマスの時もそうだった。
24、25日と立て続けにこの仏野郎に入れられたシフト。
『どうせ暇でしょ?』
…いっそ今すぐ成仏してほしい。
そんなあたしのクリスマスと言えば、おうちで1人ケンタッキーを頬張っていたのだけれど。カーネルサンダースと2人っきりで過ごすクリスマス。…ああ、なんて素敵で知的でクールなクリスマス。
小さくため息をひとつ。
カバンからボールペンを一本、取り出した。
すいませんね店長。
アナタ様はあたしが年頃の乙女だという事実を脳内からキレイサッパリ消去しているようだけど。
14日の欄に書かれたヤマダの上に、ビッと二本線。
バレンタイン。
女の子の一大イベント。
…あたしにだって、予定はあるのだ。