山田さん的非日常生活
「おばちゃーん!へったくそ〜!」
…だれがおばちゃんだこのクソガキ。そんなことを心の中で悪付いたけれど、口から出るのはゼェゼェという息切れだけ。
太陽の下で数分走るというのは、こんなに苦しいものだっただろうか。
「山田さーん!パース!」
脳天気な声が頭に響く。
若さとやらは、どうやらどこかに置いてきてしまったらしい。飛んでくるボールにそのまま反応できないでいると、それはあたしの頭上めがけて落下した。
「────っ!?」
「おばちゃーん!ナイスヘディングっ!!」
…おばちゃんじゃねえよ。つーかヘディングしたつもりもねぇよ。
同じ場所に二回も、頭の細胞が死んだらどうしてくれるんだ…全く。
酷い痛みに細める視界の延長上に、走るカボの姿があった。
─対角線上に出されたパス。
目の前に立ちはだかる男の子をサラリと交わし、小刻みなドリブルでボールを操る。
まるで吸い付いているようだ。鮮やかに振り子となった長い足。
全霊の力を与えられたボールは、唸りをあげてゴールへと飛び込む。
「ナイッシュー!!」
思わず疲れも忘れ、叫んでしまった。
こちらに振り返ったカボは、可愛さの欠片もない男の顔をくしゃくしゃにして笑った。
それはなぜか、幼い少年を思い起こさせて。
あたしの顔まで、くしゃくしゃになった。
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