山田さん的非日常生活

本当に前から思っていたのだ。

付き合っているのに、カボだけあたしに敬語だなんて。それに彼の方があたしより2つ、年上なのだ。(この前知ったのだけれど)

カボの手に構えられたハンバーガーから、ピクルスがのぞいている。
友達は結構嫌いだという子が多いけれど、あたしはそれがわりと好きだった。


「当たり前じゃないですか!」

「あ…あたりまえ!?」

「敬っている方には敬語で話すよう、祖父にならいました」


ぽかん、と口が開く。
「うやまう」とかいう言葉、久しぶりに聞いたし。

目の前のハンバーガーに、がぶりと一口かぶりついた。


「…あたしのこと、敬ってるの?」

「敬って敬ってやまないです!」

前のめりになって熱弁するカボに、思わず口角が引きつる。

カボのおじいさんの言っていることは間違っていないけれど。あたしは敬ってやまないほど敬われるような人柄じゃないし。

…ああ、なんだか言い過ぎて敬うの意味がよくわからなくなってきた。


「〜でも、彼女でしょうがっ!」


あたしがそう言うと、カボはこれでもかというほどに目を丸く見開いた。

「彼女…。じゃ、じゃあ僕は…彼氏ですか?」

「……は?」


イマサラナニイッテンダコノヤロウ、うまく漢字に変換もできないほど腸煮えくり返る思いだった。

「付き合ってんでしょ!?あたしたち!」

「お…お付き合いとか、改まって言われると恥ずかしいです」


…もう、どうぞインド洋にでも流れてしまえばいい。


「肩書き名札を付けたい気分です」

そんなあたしの苛立ちをつゆ知らず、カボは呑気にそんなことを言ってのけた。

「…肩書き?」

「ほら、『課長』とか会社の名札に印刷してあるじゃないですか。どうですか、『山田さんの彼氏 東山浩一郎』!!」


…勝手にしてください。でもあたしは、即座に縁を切りますけれども。


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