山田さん的非日常生活
カボ宅訪問という一大行事を控えた前日の土曜日。

あたしはめったに行かない街に繰り出して、めったに入らないショップに入って、その上めったにどころか今までに絶対買わなかったような洋服を買った。


ワンピース。…それも、花柄の、だ。


彼氏の両親と夕食だなんて、一体何を着ていけばいいのかさっぱりわからなかった。

持っている服といえばTシャツやジーンズ。いくらなんでもそれじゃあ…と、店をのぞきにきて、あたしには有り得ないワンピースなんかをウッカリ手に取ったのがいけなかったのだ。


「ご試着されますかぁ〜!?」


明るい、自分より1オクターブくらい高い店員の声が、すぐ隣から飛んできた。


「…え、いや、あの」

「されます!?ですよね〜!じゃ、そこの更衣室へどうぞぉ〜っ!!」

「…え、ちょっ」

「どうですか〜お客様っ!!着替え終わりましたかぁ!?」

「………(いや…まだ20秒くらいしか経ってないんですけど…)」


…そんなこんなで半ば無理やり着替えさせられ、似合う似合うチョー似合うと連発された挙げ句、


「あ!着て帰られます!?」

「…え、」

「じゃ、元の服包んどきますね〜!!」


…だいぶ無理やりお会計にまで持ち込まれた。なんてこった。

出会ってほんの数分だけれど、あの店員のお姉さんは、あたしの"歴代・絶対友達になれない人ランキング"上位にランクインだ。

…なんてこった。


新しいものを見繕おうにも、バイト代がもうすっ飛んでしまった。

ワンピースなんて女の子女の子した代物、あたしには縁のないものだと思っていたのに。似合わないことなんて、自分が一番よくわかってる。



「…すごく、素敵です……」



なのに、日曜日の待ち合わせで開口一番、カボはあたしを見てそんな戯言をぬかしやがった。


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