山田さん的非日常生活
外の空気にさらされた足が、スースーして気持ち悪い。

そういえばカボに会うとき、あたしはいつもジーンズだった気がする。もともと、制服以外でスカートをはくことなんてめったにないのだけれど。


「お姫様みたいです」

「は…?」


思わず顔がひきつる。そんな歯の浮くようなセリフ、どうしてサラッと言えるんだろうか。

でも似合ってしまうところが、この男はタチが悪い。カボの金色に近い髪の毛が、ふわっと風に舞う。


…それをちょっと、ちょっとだけ、綺麗だと思ってしまって。


あたしは不機嫌な顔を作ると、無言でズカズカとカボの車に乗り込んだ。


「…お世辞言わなくていいから」

「いえ、ホントに似合ってます!!水揚げされた巨大マグロが市場に吊されてる、みたいにしっくりきます!!」


…その例えはどうなんだろう。

運転席のカボは、まるで甘いものでも食べたみたいな幸せそうな顔で、ニコニコとこちらに視線を送ってくる。

あんまりにも居心地が悪くて、あたしはそっぽを向いて声を尖らせた。


「〜っ、早く車出しなさいよ!」

「すみません」


ブインと音を立てて覚醒するエンジン。ゆっくりと動き出した車のシートに、やっと肩の荷が下りたように体をもたれさせた。


カボがハンドルを切りながら、よくわからない鼻歌を歌う。本人は気づいていないかもしれないが、それは機嫌がいいときの、カボの習慣だった。


尖らせたままだった口元を、少しゆるめる。


…本当は、ホッとした。少しだけ、嬉しかった。


変な顔でもされたらどうしようかと思ったから。

視線のすぐ下、普段は見えない丸い膝小僧が並ぶ。

やっぱり慣れない。でも、カボがアホみたいに嬉しそうだから、下手くそな鼻歌が聞こえるから。ま、いっかと思った。

足がスースーするのも、少しくらい我慢してやってもいい。



…しかし、ホッとしたのもつかの間だった。


このあとすぐにまた度肝を抜かれるような出来事が待っているとは、あたしは夢にも思わなかったのだ。


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