山田さん的非日常生活
「…なにこれ」
車を走らせて15分足らず。やっと止まった景色の流れ、窓から見えるその光景に、あたしはあんぐりと口をあけずにはいられなかった。
どれぐらいあんぐりかって、そりゃもうあれだ、指が三本入ってしまうくらいのあんぐりっぷりだ。
そんなあたしを尻目に、カボはごくごく普通の表情で車を降りる。
「山田さんは乗ってて下さいね。今開けますから」
そう言い残し、玄関の呼び鈴のような機械に手をかざすカボ。
途端に、目の前に立ちはだかるあたしの視界を覆い尽くすそれ──巨大な門らしきものがウィーン、ガシャコーン、と大げさな音を立てて開いた。ナントカ戦隊のロボット合体みたいだ。情熱のレッド、冷静沈着ブルー、それから、カボチャ大好きイエロー。
…もう一度言おう。
「…なにこれ」
「僕の家です」
再び車に乗り込んだカボは、余裕な微笑みを浮かべながらアクセルを踏む。開いた門の向こうに待っていたのは…「なにあれちょっとした中世の城?」みたいな馬鹿でかいカボの家だった。
色とりどりの花で埋め尽くされる庭。お手伝いさんとか絶対いそう。あんぐりっぷりが、さらに四本に増えた。
…アゴが外れそうだ。
「…ねぇカボ」
「はい?」
「お父様のお仕事をお聞きしてもよろしいかしら?」
車窓から差し込む光を全部吸い込んで、もともと明るい髪はキラキラと黄金色を生み出す。相変わらず脳天気に鼻歌を口ずさむカボは、満面の笑みを浮かべて言った。
「子会社の社長です」
─Is your father SYACHO?
─Yes!!My father is SYACHO.HAHAHA!!
ああ、脳内で勝手になんとか戦隊、可憐なピンクとプリン大好きイエローが会話を…
「…車掌さん?」
「いや、そうじゃなくて」
「社会の社に長いの長で社長!?」
「…山田さん、アゴが外れそうです…」
カランカラーン。
頭の中で、福引きの一等が当たったみたいな鐘が鳴った気がした。
…お坊ちゃまだったのか、カボ。
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