山田さん的非日常生活


「…なにこれ」


車を走らせて15分足らず。やっと止まった景色の流れ、窓から見えるその光景に、あたしはあんぐりと口をあけずにはいられなかった。

どれぐらいあんぐりかって、そりゃもうあれだ、指が三本入ってしまうくらいのあんぐりっぷりだ。

そんなあたしを尻目に、カボはごくごく普通の表情で車を降りる。


「山田さんは乗ってて下さいね。今開けますから」

そう言い残し、玄関の呼び鈴のような機械に手をかざすカボ。
途端に、目の前に立ちはだかるあたしの視界を覆い尽くすそれ──巨大な門らしきものがウィーン、ガシャコーン、と大げさな音を立てて開いた。ナントカ戦隊のロボット合体みたいだ。情熱のレッド、冷静沈着ブルー、それから、カボチャ大好きイエロー。


…もう一度言おう。


「…なにこれ」

「僕の家です」


再び車に乗り込んだカボは、余裕な微笑みを浮かべながらアクセルを踏む。開いた門の向こうに待っていたのは…「なにあれちょっとした中世の城?」みたいな馬鹿でかいカボの家だった。

色とりどりの花で埋め尽くされる庭。お手伝いさんとか絶対いそう。あんぐりっぷりが、さらに四本に増えた。

…アゴが外れそうだ。


「…ねぇカボ」

「はい?」

「お父様のお仕事をお聞きしてもよろしいかしら?」


車窓から差し込む光を全部吸い込んで、もともと明るい髪はキラキラと黄金色を生み出す。相変わらず脳天気に鼻歌を口ずさむカボは、満面の笑みを浮かべて言った。


「子会社の社長です」


─Is your father SYACHO?
─Yes!!My father is SYACHO.HAHAHA!!

ああ、脳内で勝手になんとか戦隊、可憐なピンクとプリン大好きイエローが会話を…


「…車掌さん?」

「いや、そうじゃなくて」

「社会の社に長いの長で社長!?」

「…山田さん、アゴが外れそうです…」


カランカラーン。

頭の中で、福引きの一等が当たったみたいな鐘が鳴った気がした。


…お坊ちゃまだったのか、カボ。


.
< 35 / 235 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop