山田さん的非日常生活
急いで携帯を取り出すと、お母さまは嬉しそうにありがとう、とにっこり笑う。その隣ではお父さまが、微笑ましそうにあたしたちのやり取りを見ている。

別にあたしのアドレスなんてタダで配布しますけれども、一体全体なんであたしのアドレスなんか必要なんだろう。

…もしかしてあれか。息子に緊急事態があったりして連絡がつかない時に一応あたしの番号を知っている方がいいとか。なんたって次期社長になる息子だもん。

もしくはあれか?今目の前で言いづらくて保留にしてるけど、メールか電話でやっぱり別れろって言われるんじゃ…



「山田さんありがとうっ!!たまにメールするわね!!」


今日あった嬉しかったこととか、ってにっこりと笑って首を傾けるお母さま。


…え?今日あった嬉しかったことって…小学校の終わりの会でそんな発表項目あったよね?

お母さまの肩をポンと叩いて、お父さまが優しく言った。


「良かったなぁ、メル友が増えて」



……メル友ですか!お母さま可愛いなオイ!!



心の中で激しくツッコんだ。そりゃもう、関西人にもまさる勢いで。

頭の中で余計な詮索をしたあたしがアホだった。





車庫から戻ってきたカボが、あたしを助手席にエスコートしてくれた。

やっとできた個人的空間に少しホッとする。


「山田さーん!また来てね〜っ!!」


最後、帰るときには、これでもかとちぎれんばかりに手を振る二人。

車が発進したあとにバックミラーを見てみると、まだブンブンと振り続けている二人。


まるで24時間テレビのマラソンランナーが出発するかのように、盛大に見送ってくれたのだった。







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