山田さん的非日常生活
「山田さん、お家の方に連絡しなくて大丈夫でしたか?」
ちょっと遅くなってしまいましたけど、とカボが時計を気にしながら言う。
帰りの道中、カボの車の助手席で揺られるあたし。エンジンのわずかな揺れが心地よい。
今更ながらどっぷりと疲れがやって来る。…別に少しも走っちゃいないけど、心は24時間マラソン後の気分だ。幻想?幻聴?ああ、サライすら聞こえる気がしてくる。
「…全然大丈夫だよ。バイトだといっつも遅いし」
ぐったりと椅子にもたれ掛かりながら呟いた。
「それなら良かったです!山田さん、今日は来てくれて本当にありがとうございました!!」
父も母も山田さんをすごく気に入っていましたし、とにっこりと微笑みながらハンドルを操るカボ。
暗い車の中でも、キラキラしたその顔はなぜかハッキリと見えた。
「…ホントに気に入ってくれてたの?」
「もちろんです!なんたって僕の自慢の山田さんですから!!」
今にも鼻歌を歌い出しそうなカボ。本当に嬉しくてしかたがないのが隣からひしひしと伝わってきて、いたたまれない気分になる。
信号が赤になった。
停止線に合わせて、きっちりと車が止まる。
昼間なら窓に映る流れる景色が目まぐるしくて気にならないのに、こうして暗闇に閉じこめられると沈黙の重さが違ってくる。
チラッとカボの方を伺うと、真っ直ぐにこっちを見ているカボの瞳があった。
まるでとらわれたみたいに、うまくそらすことができない。
「…山田さんが、彼女で良かった」
すでにいっぱいいっぱいの状態のあたしに、カボが真顔でそんなことを言うから顔が真っ赤になってしまった。
導火線どころか、爆弾に直接火をつけたみたいな勢いで熱が上る。
…暗がりだったから助かった。じゃなきゃユデダコみたいな顔を披露するところだった。
「…カボ」
「はい?」
「カボは、一体あたしのどこを好きになったの?」
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