山田さん的非日常生活
こんなこと自分から聞くなんて、恥ずかしくて死にそうだ。

昔っから、『あたしのこと好き?』とか『どこが好きか言って!』とか言う女にはなるまいって決めてたのに。


でも、前から不思議だった。中身はどうあれ、見た目だけなら一流なカボのことだ。言い寄ってくる女の子ならいっぱいいたはず。

ずっと聞きたかった。

今このタイミングでしか、きっと聞けない。


「…きっかけは、ちゃんとあるんです」


カボの一声を待っていたかのように、ちょうど信号が青に変わる。

アクセルで加速し始めた車。カボの横顔が、わずかに反射したテールランプの光で白く浮かぶ。


「好きなところもいっぱいある。例えば、嘘がヘタで嘘をつけないとこだとか、意地っ張りなとこだとか…あと、実は負けん気が強いとこだとか」


…それって全部、悪くいえば短所になるんじゃないだろうか。

つまり翻訳すると、"常にキョドっていて譲り合いの精神がなくて子供っぽい女子"ってことじゃないんですかね?

確かに、去年の正月、いとこの五歳の男の子相手に本気でかるたを取りにいったのは、自分でも大人げなかったと思うけれど。だって勝った方がハーゲンダッツ、負けたらガリガリ君っておばあちゃんが言うんだもん!!


「でも好きなところがあるから好きなんじゃないです。……山田さんだから」


ぎゅいん、といきなり急カーブした車体。

遠心力で、体が右にぐわんと揺れる。


右肩がかすかに、カボの腕に触れた。


「山田さんが山田さんだから、好きなんです」

「……!!」


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