山田さん的非日常生活
バレンタインの次の日は、久々にバイトが休みだった。
久々の休みくらいゆっくり読書でもしてやろうと思ったが、母さんにデザートを買ってくるように言われてしまったから仕方がない。
「…何であたしが」
「お母さん、アンタのために毎日ご飯作ってあげてるでしょ」
…理不尽だ。
そして「デザート」と聞いて一番に思い浮かんだのはなぜか…プリンで。
だから結局、自分のバイト先に買いに行くことにした。
別に、とくに好きなわけじゃないのに。
『山田さん』
…やっぱり、理不尽だ。
「…あ、」
トボトボと歩く夜道、頬を冷たいものがかすった。
「雪だ……」
漆黒の空から、ふわりふわりと舞い落ちる白。
雨にはないこのゆるやかなスピードが、何だか好き。
少しだけ得した気分になって、浮き足立って歩いていく先にコンビニの白い光が見えた。
…そして。
「……あ」
思わず足を止めた。
向かいにいる人物も、同じように歩みを止めた。
「…こんばんは、山田さん」
今日はバイトじゃないんですね、と呟いて、カボはいつもの笑顔を向ける。
頭の上に積もった雪のせいで…金髪のはずの髪が、まだら模様に白かった。
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