Long Road
ACT.5
「今日の授業は勉強になったけど、腕が腱鞘炎になりそう。」
さゆりちゃんが、笑いながら腕をさすった。
「ほんと、腕だるいね。あれだけ泡立てしたんだもん。」
私も笑った。
最近、体中に甘い匂いが染みついてきたような気がする。
まだ、製菓専門学校に入学して1か月だけれど、毎日がめまぐるしく、充実していた。
それにしても、今日のこの腕のだるさは、まるでコンクール前のようだった。
いずこも一緒だなあと、思うと少し笑える。
「泡立ては、パティスリーにとって命だしね。きっと、このだるさからは、一生逃れなれないんだろうね。」
さゆりちゃんのどこか誇らしげな顔。
すべてが、物珍しかった。
よくよく考えると、ハイスクールから、外国で学び続けていたわたしにとって、日本の学校へ通うのは中学以来だった。
もっとも、ここは学校ではなく、専門学校だから、普通の学生生活とは違ったのかもしれない。
とはいえ、音楽からかけ離れた生活は、新鮮だった。