ただ君だけを。
第一章
甘いローズの香りを漂わせ

長いブラウンの髪をなびかて

君は走っていく。




「秋人!」


俺じゃない男の元へ。


「あ、夏輝。おはようっ」


「おはよ…」


「どしたの、元気ないじゃん……って夏輝はいつもこんな感じか。じゃ、また教室でね!」


ふんわりと目を細めてからその折れそうに白くて細い腕を軽く横に振る。



今まではとてつもなく嬉しかったことも、ある時から俺にとっては嫌で嫌で仕方ない。




通りかかった時にされる挨拶。

ただの『幼馴染』に向けてのおはよう。



自分の彼氏のところに行くまでに、俺がいたからたまたましてきただけ。



「はぁー…」


ちらっとその方向を見れば、彼氏の高岡秋人と仲良く腕を組んでじゃれあう俺の幼馴染、水野陽歌。


漢字は違うけど春、夏、秋って全員季節の名前になってる。


…どうでもいいんだけど。



「秋人、今日私の家泊まってったら?親が昨日から海外旅行行ってて家一人きりなんだぁ」


「いいの?じゃあ泊まってく」


高岡が笑えば、陽歌も笑う。



そんな光景が、こんなにも苦しいなんて。





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