ただ君だけを。
「見てこれ!階段で滑ってね、痣になっちゃったの」



むぅーっと頬を膨らまして、右足を上げる。


靴下を脱いだ足首には青紫の大きな痣。



「…大丈夫?」


遠慮がちにそう聞けば、もともと大きな目がもっと大きく見開かれる。




「大、丈夫だよ。…びっくりした。最近さ、夏輝私の事避けてたでしょ?」



自分の足に湿布を慣れた手つきで貼りながら陽歌は言った。


「そんなこと…」

「あるよ」


『そんなことない』



そう言おうとしたけど、陽歌に被せるように言われたせいで言葉を遮られる。



「話しかけても前以上に素っ気無いから…嫌われたのかと思ってた」



悲しそうに微笑んで、陽歌は立ち上がった。



右足が思ったより痛いようで、一瞬顔をしかめるけど、すぐ何もなかったように笑顔になる。



「またね!」



君は、罪だ。



ガラガラとちょっと古い音が鳴り、扉が閉じていく。



「『また』か…」



誰もいなくなった保健室に声を漏らす。



『またね』



その言葉の重さを、君は知らないんだろう。





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