文実委員になったから



「うし。あとは教材片付けるだけだな」


相沢くんがそうつぶやいたのが聞こえて、私は慌てて身を隠す。


するとすぐに、相沢くんが教材を持って職員室のほうに向かうのが見えた。


結局、全部やってもらっちゃった……。


頼んだわけじゃないのに、私がほいほい引き受けた仕事を嫌な顔もせずに彼はやってくれた。


何なのこの人は……。


あんな失礼なことを言う割に、何で……。



相沢くんは鞄も一緒に持って教室を出て行ったから、教材を片付けてそのまま帰るんだろう。


お礼は、明日言うしかない。


頼んだわけじゃないけど、正直助かったのは事実だもん。


それに、初めてだった。私のことを手伝ってくれたのは。


さっきはあんなふうに怒ってしまったけど、相沢くんはもしかしたらいい人なのかもしれない。



「……私なんかのために、ありがとうございました……」



誰もいない教室で、相沢くんの席に向かって私は軽く頭を下げ、そうして帰路についた。



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