いつかの花。

 ローファーの中はぐっしゃぐしゃ。

 かばんを前に抱えて、強く激しく降りしきる雨の中を全力疾走。

 けれども、まだ先は見えない。

 目の前さえ、なんとか見えるという、悪天候の日特有の視界の悪さがひどくうらめしい。



 あーあ、傘もったいなかったなぁ。

 五百円もしたのに。

 今度からは百均で折りたたみ傘を探さなきゃ。



 本当に、今日はツイてない。

 テストについてもそうだし、お金の持ち合わせが悪かったこともそうだし、この雨だってそうだ。

 唯一ツイてたといえるのは、まり子とのケーキバイキングくらい。

 おそらく、アレで今日の分の幸福は使い切っちゃったんじゃないだろうか。



 ケーキ、すごく美味しかったし……。

 お手ごろ価格だし、お金が溜まったらまた行こうかな。



 この雨じゃ、現実逃避もしたくなる。

 まだ冬服のブレザーを着ていたことが救いと言える。

 夏服のカッターシャツだけだったなら、スケスケでとてもじゃないが平常心ではいられないだろう。

 恥ずかしすぎて死ぬ!



 チラリと雨空を見上げたその時。

 いや~な予感がした。



「まさか……。まさか、ね。ていうか頼むからヤメテ欲しい……」



 こういう個人的な願いは、概して届かないものだ。


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