いつかの花。

 ムッ。

 そこまで笑うことはないと思う、のに……。



 少し不機嫌になった私の様子にナニか感じたのか、湖子は少しだけ頬を引きつらせた。



「し、失礼しました。では、夕餉を運んでくるわ」


「よろしくね」



 スタスタと出て行った湖子を見送り、漢詩を書き写そうとして失敗した書簡をまとめる。



 この時代、紙は貴重なものであるらしく、重要でないものは大抵が木簡に記される。

 さっきまで私が使っていたのも、何やらメモがされていた要らない書簡の裏だった。



 ミミズがのたくった、としか言いようがない自分の汚すぎる字。

 それと、見本用にと湖子が書いてくれた美しい字とを比べる。



 ……やっぱり、慣れ、なんだろうだけれど。

 この時代にシャーペンもボールペンもないのは当たり前。

 だけど、それらがすごく恋しい。



 筆なんて、小学校や中学校の書写の時間以外では使ったことなんてなかった。

 けれど、ここでは筆を使うのが当たり前。



 カルチャーショックとはよく言ったものだけれど……。



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