いつかの花。


「お待たせしてしまい、申し訳ありません、真人殿」



 ガラッと扉が開かれた。

 そして、部屋の中央で机を間にして向かい合って座る私たち親子の元へ、三人の人が現われた。



「いやいや、お忙しいのは知っておりますからの。仕方なき事じゃて」



 相変わらずのにこにこ笑顔で、けれども本当に嬉しそうな様子で、真人お父様はそう言った。

 そうして、真人お父様がスクッと立ち上がった。

 その動作は、年齢というものを全く感じさせない。

 さすがは有力豪族のお一人だ、と今さらながらに思う。



 真人お父様が立ち上がった以上、義理といえども娘である私が座っていることは礼儀に反する。

 そう考えて、私もできる限り音を立てないように、スルリと立ち上がってみせた。

 この辺りの動作は、湖子と堤巳兄様に徹底的に叩き込まれた……。



 ……辛い四日前の家庭教育を思い出してしまいそうになった。



 だめ、だめ。

 今は集中しておかないと。

 ……宿題と、某義兄に怯えるのはそれからにしておこっと……。



 現実逃避と言われても構うもんか。



 そう心の中で呟き、目の前の人たちに視線を向けた。



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