いつかの花。
結局、本名を名乗った。
小野妹子が遣隋使だったはずだから、この時代に小野家はあるはず!
怪しまれない他の苗字が思いつかなかった、というのも本名を使った理由の一つでもあったりする。
「ほぉ。まことか?」
「本当です」
「そうかそうか」
なぜか、好々爺然とした男の人は、笑みを浮かべながら、しきりに『そうかそうか』と繰り返した。
やっぱり、偽名を使うべきだった……?
後悔するが、時すでに遅し。
ガシッと方を捕まれて、にこーっと微笑を向けられた。
「そなた父親はおるのかえ?」
「ええと……」
マズイ。
そう訊かれるとは思ってもみなかった。
でも、そんなことまで正直に言えるわけないってっ!
ついつい、自己弁護に走る自分があまりに自分らしすぎて思わず涙が出そうになった。
「それにのぅ。そなたは何やら可笑しな装いをしておるの。どこの出じゃ?」
「ええと……それは……」
「ふぉっふぉっふぉっ。よいよい。答えられぬならそれでかまわんさ」
どこから取り出したのか、先が丸くなっている木の板で、ペチペチと頬を叩かれた。